M子さんは結婚適齢期といわれる27歳で和菓子屋の長男と結婚しました。M子さんは東北出身ということもあってか透き通るように色白で女の子が生まれたらM子に似た色白の可愛い女の子が生まれるね!と和菓子屋の長男は嬉しそうに話していました。
M子さんはいかにも子宝に恵まれそうな下半身のしっかりした体系で愛嬌もよくお姑さんも跡取の嫁にはピッタリと大喜びでした。
結婚してから2年は和菓子作りの仕事を学び落ち着いたら子作りに励もうね!と夫婦で約束していたのです。結婚当初に周囲の人から「子供は作らないの?」という質問にも「新婚生活を二人で満喫してからです!」と笑顔で答えていました。
そして2年が経ち、そろそろ子供を作ろうか?お袋も孫の顔がみたいって言ってるし。そう長男が持ちかけM子さんはその月から基礎体温を測ることにしました。
今までしっかり避妊してきたから避妊をしなくなればすぐに妊娠するだろう。10組に1組の夫婦に子供ができないっていうけれど私達は大丈夫!だって私も彼も健康そのものだし!親兄弟も子沢山だもん!
避妊なしでの性交渉は開放的で旦那様も大喜びでした。愛し合ってる感覚で身体も心も満たされ何もかも順調でした。結婚して子供ができて家族ができる・・・自然のなりゆきだと思っていました。
うまくいけば20代ぎりぎりに1人。それから2歳くらいあけてもうひとり。M子さんは2人の子供と旦那様と4人家族で遊園地に行くことを想像して嬉しくなって微笑みました。
子どもができないことで夫婦の関係にヒビが入る
子作り開始から半年。まあ、まだもう少しかかるよね。そんなことを言いながら買い物ついでに赤ちゃんの服をみたりしながら「子供はつくらないの?」という周りの人の質問には「頑張ってます!」と恥ずかしそうに答えるM子さんでした。
そして1年が過ぎ、少し焦りを感じるようになりました。M子さんは生理がくるたびに旦那様に言うのがだんだん嫌になってきたのです。がっかりする顔をみるのが辛くて・・・生理がきたことを聞いて旦那様が、ため息を漏らすこともありました。
お姑さんに、「まだできないの?」と聞かれるのもストレスでした。よほど期待されていたのでしょう。名前は私がつけるとはりきっていたくらいですから。
1年半を過ぎ、相変わらずどうにか性交渉を続けているのもかかわらず、毎月生理はきちんとやってきてM子さんの精神的な負担はどんどんと大きくなっていきました。
私の身体が悪いの?私のせいなの?長男の嫁として失格なの?お姑さんはそう思ってるの?子供ができない身体だとしたら私は必要ないの?女として失格なの?悲しくて涙がこぼれました。
この頃からM子さんはお腹が痛いからと嘘をいって性交渉を拒むようになり1人で殻に閉じこもってしまったのです。周りの友達はこの2年で次々に子供ができ同級生の子供になるかもね!と笑って話していた友達ももう何もいいません。
こうしてM子さんはすっかり気持ちが暗くなり旦那様との仲も少しずつ冷めていったのです。
追い詰められる妻
「定期的な性生活を送り、とくに避妊などをしていないのに、2年以上妊娠しない場合を不妊症といい、健康な男女が結婚して通常の性生活を営んでいる場合、1年以内に約80%、2年以内では約90%が妊娠している」ネットではこう説明しています。
ですから、普通に性交渉があって2年以内に妊娠しない場合に「不妊」と定義されるようです。もちろん女性側の問題である場合です。男女どちらの問題なのかは半々のようです。
病院に行くことで「不妊症」の烙印が押されてしまうのは怖かったんですね。回数が減ってしまった性交渉に密かに妊娠の期待を持ち続け延ばし延ばしにしてしまったのです。子作り開始からもう2年半、2人は30歳を超えていました。
その年のお正月に親戚が集まってお酒の入る席で「もういい加減、子供ができてもいい頃だろう?」酔った勢いで旦那様の叔父さんがM子に言いました。精一杯の笑顔で「そうですね」と答えようとしたけれど涙が次から次に溢れて止まらなくなってしまいました。
その夜M子さんが泣いている姿をみて、やっと2人が向き合って話す機会がもてたのです。妊娠しない事はとてもとてもデリケートな悩みであり、ほとんがどちらか一方の健康上の問題になるので「責任追及」のような感じになってしまいます。
旦那様もM子さんを責めるような形になってしまうのではないかと、この問題から目を背けていたのです。でも、夫婦になった以上は避けて通れない問題なのですから蓋をしてしまっては解決にはならないのです。
不妊治療を選択しない決断
子供を作ろうと話し合ってから2年半。どちらかの健康状態の問題を明るみにして責任の所在を追及するようで、なかなか話し合いが持てなかった跡取息子夫婦は、ハッキリさせることが大切ではないと結論を出しました。
子供というのは授かりものなので「自然にまかせるのが1番だ」と。不妊症の検査をして治療するよりも、このまま成り行きにまかせてみようと。
M子さんは内心ほっとしました。検査をうけなければ「不妊症」の刻印を押されることはないのです。子供ができないのは自分の健康状態の問題か旦那様なのか。五分五分のままなのです。自然にまかせようという選択をしてくれた旦那様の思いやりがとても嬉しくなりました。
それからというもの、この夫婦は自然に授かるパワーの源を探して「子宝神社」にお参りにいったり「子宝グッズ」を購入したり。引越しすると授かりやすくなるときいて思い切ってアパートを借りて引越しもしました。
一方で街で見かける小さな子供のいる家族が恨めしく思えたり、大きな声で泣いている赤ちゃんがうるさくてたまらなく感じたりと複雑な想いが心を支配していきました。
結婚して5年目。子作り開始から約3年。お馴染みの顔と身体。そしていつもの手順。意外性もなくわかりきった行動やしぐさ。「慣れ」という人間の習性がこの夫婦の性生活を空しくしていったのです。これこそが「自然の成り行き」としかいいようがありません。
ただの作業になってきた性生活
女性は性生活に「慣れ」が訪れても受身という考え方からすると特別な問題はないように思います。しかし男性はそうもいきません。和菓子屋の跡取息子は夫婦生活のマンネリ化をなんとかしようと必死で考えました。
新鮮な気持ちを取り戻すにはどうしたらいいのか?AVを観ながら興奮した状態で頑張ってみたり。時にはフリルで透け透けの下着を買ってきたり。その手の器具を使ってみたりとマンネリ化からの脱出を試みたのです。
それも一時的なものでした。ネタが尽きた頃、目をつぶって違う女性との性交渉を想像してみると意外にうまくいったのです。終始、目をつぶり行為を行う旦那様をみてM子さんは不審に思っていましたが、あえて問いただすことができませんでした
とにかく待望の赤ちゃんを妊娠、出産できるなら、旦那様が好きな芸能人を想像して射精しても構わないと思っていました。2人の性交渉はM子さんの卵巣に旦那様の精子を送り込むだけの作業になっていったのです。
ある夜、旦那様はいつものようにM子の身体を使って想像の世界で性交渉をしていました。そして、射精寸前にその想像した女性の名前を口走ってしまったのです。その声は狂おしいほどに愛おしくうめき声とともに発せられました。
M子さんは自分の耳を疑いました。それはM子さんの実の妹の名前だったからです。まさか旦那様が自分の実の妹との性交渉をリアルに想像していたなんて。少し前に一緒にみた禁断のAVをそのまま置き換えたような許しがたい想像でした。
旦那の浮気に発展して離婚へ
この出来事から跡取息子夫婦の仲は冷め切ってしまいました。子作りどころか口を聞くのも汚らわしいと思うようになり、同じ空気を吸うのも嫌というくらいに険悪な関係になってしまいました。
欲求不満になってしまった跡取息子は他の場所で発散させ、とうとう浮気が発覚して離婚することになりました。婚約中に思い描いた2人の可愛い子供と妻との4人家族。名前を考えたりもしました。しかしそれは現実にはならなかったのです。
この夫婦が不仲になった原因は、どちらかの健康上の問題で子供ができなかったからでしょうか?そうではなく「子供ができない事」の現実を直視しなかったことにあると思います。
子供が欲しいけれど、どちらの健康状態に問題があるのか責任の所在をハッキリさせるのは辛い。どちらのせいにもしたくない。それを「授かりもの」という都合のいい言葉で曖昧にしてしまい「まじない」や「神頼み」に走ってしまったことが原因ではないでしょうか?
このように不妊と夫婦仲というのは密接な関係にあります。婚約中に夢物語を語り、幸せな気持ちを共有することは大切なことですが、もしもそうならなかった場合のこともきちんと話しておくべきです。
諦めて夫婦で楽しく暮らす方向に転換するのか、それとも検査を受けて適切な治療をうけ専門家と相談しながら進めていくのか。現実をきちんと受け止めて夫婦で乗り越える信頼関係を築いていけるように約束して結婚することが大事です。